- 2025年7月16日
潰瘍性大腸炎・クローン病
潰瘍性大腸炎とクローン病を合わせて、“炎症性腸疾患(IBD)”と呼ばれます。原因不明で慢性的な経過をたどります。最近、日本人の患者が急激に増えています。食生活の変化(動物性脂肪、高たんぱく食)が原因で腸の免疫機能に異常が発生すると言われています。また、昔の日本における野菜、魚類中心の食生活から肉類が増加したのも一つの要因とされています。炎症性腸疾患は欧米や日本など先進国に多い病気です。生活水準や衛生環境がよいと発症すると考えられています。
長期間の治療が必要な慢性の病気です。潰瘍性大腸炎とクローン病は、厚生労働省の指定する難病です。医療費の助成を受けることができます。
潰瘍性大腸炎・クローン病の診断
血液検査
炎症:CRP(血清C反応性タンパク)、白血球、血小板
貧血:赤血球、血色素量(Hb)、ヘマトクリット値(Hct)
栄養状態:総蛋白質(TP)、アルブミン(ALB)、総コレステロール(TC)、コリンエステラーゼ(ChE)
肝機能;AST、ALT、ALP,γ-GTP、LDH
腎機能:尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)
膵機能:アミラーゼ(AMY)、リパーゼ
バイオマーカー:便中カルプロテクチン、ロイシンリッチα2グリコプロテイン(LRG)
大腸内視鏡検査
潰瘍性大腸炎の重症度分類
重症 | 中等症 | 軽症 | |
排便回数 | 6回以上 | 重症と軽症の間 | 4回以下 |
顕血便 | +++ | ―〜+ | |
発熱 | 37.5度 | ― | |
頻脈 | 90 /分 | ― | |
貧血 | Hb 10 g/dL | ― | |
CRP | 3.0 mg/dL | 正常 |
顕血便
― 血便なし
+ 排便の半数以下でわずかに血液付着
++ ほとんどの排便時に血液混入
+++ 大部分が血液
重症=排便6回以上と顕血便+++に加えて発熱もしくは頻脈があり、6項目中4項目を満たす
軽症=6項目全て満たす
クローン病の重症度分類
IOIBDスコア
1項目1点とし、2点以上を医療費助成の対象とする。
(1)腹痛
(2)1日6回以上の下痢あるいは粘血便
(3)肛門部病変
(4)瘻孔
(5)その他の合併症(ぶどう膜炎、虹彩炎、口内炎、関節炎、皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)、深部静
脈血栓症等)
(6)腹部腫瘤
(7)体重減少
(8) 38℃以上の発熱
(9)腹部圧痛
(10)ヘモグロビン 10g/dL 以下
潰瘍性大腸炎治療指針
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 厚生労働科学研究班事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和5年度改訂版 令和6年3月31日
寛解導入療法 | |||||
軽症 | 中等症 | 重症 | 劇症 | ||
左側大腸炎型 | 全大腸炎型 | 経口剤: 5-ASA製剤、ブデソニド腸溶性徐放錠 注腸剤: 5-ASA注腸、ステロイド注腸. フォーム剤: ブデソニド注腸フォーム剤. ※直腸部に炎症を有する場合はペンタサ®坐剤が有用 | ステロイド大量静注療法 ※改善なければ劇症またはステロイド抵抗例の治療を行う ※状態により手術適応の検討 | 緊急手術の適応を検討 ※外科医と連携のもと、状況が許せば以下の治療を試みてもよい ・ステロイド大量静注療法 ・タクロリムス経口・シクロスポリン持続静注療法* ・インフリキシマブ ※上記で改善なければ手術 | |
ステロイド経口 (5-ASA不応・炎症反応強い場合) ※ ステロイド経口で改善なければ重症またはステロイド抵抗例の治療を行う カロテグラストメチル(5-ASA不応・不耐例) | |||||
直腸炎型 | 経口剤:5-ASA製剤 坐 剤:5-ASA坐剤、ステロイド坐剤 注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸 フォーム剤:ブデソニド注腸フォーム剤 ※安易なステロイド全身投与は避ける | ||||
難治例 | ステロイド依存例 | ステロイド抵抗例(中等症・重症) | |||
アザチオプリン・6-MP* ※上記で改善しない場合:血球成分除去療法・ タクロリムス経口・インフリキシマブ・アダリムマブ・ゴリムマブ・トファシチニブ・ フィルゴチニブ・ウパダシチニブ・ベドリズマブ・ウステキヌマブ点滴静注(初回のみ)・ ミリキズマブ点滴静注(0,4,8週)を考慮 ※トファシチニブ・ウパダシチニブはチオプリン製剤との併用をしないこと | 血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ・アダリムマブ・ ゴリムマブ・トファシチニブ・フィルゴチニブ・ウパダシチニブ・ベドリズマブ・ウステキヌマブ点滴静注(初回のみ)・ミリキズマブ点滴静注(0,4,8週) シクロスポリン持続静注療法*(重症・劇症のみ) ※重症例の中でも臨床症状や炎症反応が強い場合、経口摂取不可能な劇症に 近い症例ではインフリキシマブ、タクロリムス経口投与、シクロスポリン 持続静注*の選択を優先的に考慮 ※改善がなければ手術を考慮 | ||||
寛解維持療法 | |||||
非難治例 | 難治例 | ||||
5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤) | 5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤)・アザチオプリン・6-MP*・血球成分除去 療法**・インフリキシマブ**・アダリムマブ**・ゴリムマブ**・トファシチニブ**・ フィルゴチニブ**・ウパダシチニブ**・ベドリズマブ点滴静注・皮下注射**・ ウステキヌマブ皮下注射**・ミリキズマブ皮下注射** |
* 現在保険適用には含まれていない ** それぞれ同じ治療法で寛解導入した場合に維持療法として継続投与する 5-ASA経口剤(ペンタサ®顆粒/錠、アサコール®錠、サラゾピリン®錠、リアルダ®錠)、5-ASA注腸剤(ペンタサ®注腸)、5-ASA坐剤(ペンタサ® 坐剤、サラゾピリン®坐剤)、ステロイド注腸剤(プレドネマ®注腸、ステロネマ®注腸)、ブデソニド注腸フォーム剤(レクタブル®注腸 フォーム)、ステロイド坐剤(リンデロン®坐剤)
潰瘍性大腸炎治療のフローチャート
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 厚生労働科学研究班事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和5年度改訂版 令和6年3月31日

難治症例の治療
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 厚生労働科学研究班事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和5年度改訂版 令和6年3月31日

クローン病治療のフローチャート
潰瘍性大腸炎・クローン病診断基準・治療指針 厚生労働科学研究班事業 「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和5年度改訂版 令和6年3月31日

2-11-1 潰瘍性大腸炎の薬物治療
2-11-1-1長期予後の改善 を目指す treat to target strategy
潰瘍性大腸炎に対する薬物治療としては 5-ASA製剤,副腎皮質ステロイド,チオプリン製剤が用いられてきました。TNFα抗体製剤の開発を皮切りに,多くの生物学的製剤や低分子化合物(経口投与が可能)が開発されています。優れた治療薬と便カルプロテクチンなどのバイオマーカーの開発により,症状の軽減を目指す治療から、長期予後改善を目的としたtreat to target strategy(治癒を目指す治療)に変わってきています。
2-11-1-2 潰瘍性大腸炎の生物学的製剤
種類 | 抗体標的 | 一般名 | 商品名 | 投与方法 | 特徴 |
サイトカイン | 抗TNFα抗体製剤 | インフリキシマブ | レミケード | 0,2,6週目点滴、以降8週毎点滴、1-2時間 | 生物学的製剤で最も歴史が長い ステロイド抵抗性・依存性に効果 効果が早くでる 二次無効 インフュージョンリアクション |
サイトカイン | 抗TNFα抗体製剤 | アダリムマブ | ヒュミラ | 2週毎皮下注。自己注射可 | 自己皮下注可 効果やや遅い 二次無効、インフュージョンは起きにくい 増量可能。病状不安定者向き |
サイトカイン | 抗TNFα抗体製剤 | ゴリムマブ | シンポニー | 0,2,6週目皮下注、以降4週毎皮下注、自己注射可 | 4週毎自己注射で間隔長い 用量調整不可 完全ヒト抗体で二次無効ほぼない |
サイトカイン | 抗IL-12/23p40抗体製剤 | ウステキヌマブ | ステラーラ | 初回点滴1時間、2回目以降は8-12週毎皮下注. 自己注射不可 | 安全性高い 自己注射不可だが最大12週毎 投与間隔長いので重症・緊急例は使いづらい |
サイトカイン | 抗IL-23p19抗体製剤 | リサンキズマブ | スキリージ | 3回目まで4週毎点滴、1時間。4回目から8週毎皮下注 | 症状に応じて用量変更可 |
サイトカイン | 抗IL-23p19抗体製剤 | ミリキズマブ | オンボー | 3回目まで4週毎点滴、1時間。4回目から4週毎皮下注 | 効果不十分なときは点滴に戻せる |
サイトカイン | JAK阻害薬 | トファシチニブ | ゼルヤンツ | 1回5mg 1日2回8週間経口投与 | 飲み薬 二次無効少ない JAK1/2/3阻害 即効性 強い効果、TNF無効例に効果 RA, 感染症、帯状疱疹の副作用 心血管系・悪性腫瘍リスク |
サイトカイン | JAK阻害薬 | フィルゴチニブ | ジセレカ | 1回200 mg 1日1回経口投与 | JAK1阻害 1日1回内服 帯状疱疹少ない 効果は緩やか 腎障害 |
サイトカイン | JAK阻害薬 | ウパダシチ二ブ | リンヴォック | 1回45mg 1日1回8週間経口投与 | JAK1阻害 1日1回内服 効果速い 感染症、帯状疱疹の副作用 肝障害 |
インテグリン | 抗α4β7インテグリン抗体製剤 | ベドリズマブ | エンタイビオ | 0,2,6週目点滴、以降8週毎点滴、3回目から2週毎皮下注に変更可。自己注射可 | 腸の接着因子に対する抗体で腸のみに作用し安全性高い 効果がゆっくり 関節症状には効かない |
インテグリン | インテグリン阻害薬 | カロテグラストメチル | カログラ | 1回960mg 1日3回経口投与 6か月 | 飲み薬(ただし24錠/日) 進行性多巣性白質脳症(PML) |
2-11-2. クローン病の薬物療法
クローン病の治療も潰瘍性大腸炎と同じく、5-ASA製剤,副腎皮質ステロイド,チオプリン製剤が用いられます。ステロイドやチオプリン製剤で効果が不十分な場合は、潰瘍性大腸炎と同じく生物学的製剤が使われます。
2-11-2-2 クローン病の生物学的製剤
種類 | 抗体標的 | 一般名 | 商品名 | 投与方法 | 特徴 |
サイトカイン | 抗TNFα抗体製剤 | インフリキシマブ | レミケード | 0,2,6週目点滴、以降8週毎点滴、1-2時間 | 生物学的製剤で最も歴史が長い ステロイド抵抗性・依存性に効果 効果が早くでる 二次無効 インフュージョンリアクション |
サイトカイン | 抗TNFα抗体製剤 | アダリムマブ | ヒュミラ | 2週毎皮下注。自己注射可 | 自己皮下注可 効果やや遅い 二次無効、インフュージョンは起きにくい |
サイトカイン | 抗IL-12/23p40抗体製剤 | ウステキヌマブ | ステラーラ | 初回点滴1時間、2回目以降は8-12週毎皮下注. 自己注射不可 | 安全性高い 自己注射不可だが最大12週毎 投与間隔長いので重症・緊急例は使いづらい |
サイトカイン | 抗IL-23p19抗体製剤 | リサンキズマブ | スキリージ | 3回目まで4週毎点滴、1時間。4回目から8週毎皮下注 | 症状に応じて用量変更可 |
サイトカイン | JAK阻害薬 | ウパダシチ二ブ | リンヴォック | 1回45mg 1日1回8週間経口投与 | JAK1阻害 1日1回内服 効果速い 感染症、帯状疱疹の副作用 肝障害 |
インテグリン | 抗α4β7インテグリン抗体製剤 | ベドリズマブ | エンタイビオ | 0,2,6週目点滴、以降8週毎点滴、3回目から2週毎皮下注に変更可。自己注射可 | 腸の接着因子に対する抗体で腸のみに作用し安全性高い 効果がゆっくり 関節症状には効かない |
2-11-3 炎症性腸疾患の医療費の助成
炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎やクローン病は、厚生労働省が定める指定難病に指定されているため、医療費の公費助成を受けることができます。
医療費助成の対象となるのは、一定以上の病状を有する患者です。潰瘍性大腸炎の場合は中等症以上、クローン病の場合はIOIBDスコアを用いて2点以上の患者が対象となります。また、重症度が「軽症」であっても、高額な医療を継続することが必要である場合は対象となる場合があります。
難病法(正式名:難病の患者に対する医療等に関する法律)に基づく医療費助成制度では、長期間にわたって高額な医療費がかかる患者については負担上限額が軽減されます。
詳細はこちら BNR
医療費助成の申請方法
保健所などの窓口に申請します
医療費助成の支給の申請は、居住地の保健所などの窓口で行います。
窓口では申請書、診断書、住民票などの書類が必要になります。
申請の際に必要となる書類
- 特定医療費支給認定申請書/登録者証(指定難病)申請書
- 診断書(臨床調査個人票)
- 個人番号に係る調書(指定難病用)
- 住民票(申請者、また保険証の写しなどを確認する必要がある構成員が全員含まれている住民票)
- 区市町村民税課税(非課税)証明書
- 保険証(写しなど:被保険者証、被扶養者証、組合員証などの医療保険の加入関係を示すもの)
- 保険者からの情報提供にかかる同意書
医療費助成の期間について
申請から交付までの期間
医療費助成は申請から交付まで3ヶ月から半年程度かかります。
なお、医療費助成の対象となるのは、申請日以降に指定医療機関を受診した際の医療費で、申請日以前の医療費、また指定医療機関以外での医療費は対象となりません。
※ただし、緊急その他やむを得ない場合(旅行中の緊急受診など)には、指定医療機関以外での医療費も対象となります
有効期間は原則1年
医療費助成が認められた後、有効期間は原則1年となりますので、継続して助成を受けるためには毎年の更新が必要になります。