- 2025年7月16日
慢性B型肝炎
感染経路
輸血、不適切な観血的医療行為などによる経皮的感染と、性交渉、分娩時の経粘膜感染によるものであると考えられています。
◎垂直感染(母子感染):母親がHBVの持続感染者で、出産時に産道出血によりHBVが新生児の体内に侵入することにより感染します。また、母子感染では3才児未満の乳幼児はまだ免疫機能が不完全なため、キャリアとなってしまうといわれています(一般生活では基本的には感染しません)。
◎水平感染:医療従事者の針刺し事故や性交渉、ピアスの穴あけや入れ墨などのHBVに感染した血液・体液が体内に入り込むことで感染します。
HBVの持続感染は出生時または乳幼児期の感染(母子感染)がほとんどで、成人での初感染(水平感染)では持続感染化することはまれです。
持続感染 が成立した場合でも、ほとんどは肝機能正常なキャリアとして経過され、その後免疫能が発達するに従い、顕性または不顕性の肝炎を発症すると言われています。そのうち85~90%はセロコンバージョン(seroconversion)を起こし、最終的に肝機能正常の無症候性キャリアへ移行し、残り10~15%が慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌)へ移行し肝機能異常を持続します。
一過性感染の場合、70~80%は不顕性感染で終わるものの、残りの20~30%のケースでは急性肝炎を発症します。このうち約2%が劇症 肝炎を発症し、この場合の致死率は約70%とされています。
# セロコンバージョン(seroconversion)とは、抗原が陰性となり抗体が陽性となること。
HBV 一過性感染の自然経過
急性B型肝炎は比較的緩徐に発病し、微熱程度の発熱、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感などの症状がみられ、成人例で30~50%、小児例では10%以下で黄疸を認めます。重症例を除いて、これらの症状は1カ月程度で回復します。
一般に回復後にはHBVは生体から排除され、キャリア化することはないと言われていますが、免疫能の不十分な乳幼児、宿主の免疫能が低下した病態、免疫抑制剤の投与を受けている場合などの感染においては、キャリア化へ移行する例が存在する場合もあります。発症時にはHBs抗原、HBe抗原、IgM HBc抗体が陽性となります。1~2ヶ月でHBs抗原、HBe抗原は陰性化し、その後IgG HBc抗体、HBe抗体、HBs抗体が順次出現します。

HBV 持続感染の自然経過
① 無症候性キャリア
乳幼児期は HBV に対する宿主の免疫応答が未発達のため、ウィルス量が多いのに関わらず免疫応答は起きない。HBe抗原陽性かつ HBV DNA 増殖が活発であるが、ALT 値は正常で肝炎の活動性がほとんどない状態が続く。感染力は強い。その期間は数年から 20 年以上まで様々である。
② 肝炎期
成人になる HBV に対する免疫応答が活発となり活動性肝炎となる。HBe 抗原の消失・HBe抗体の出現(HBe 抗原セロコンバージョン)に伴って HBV DNA の増殖が抑制されると肝炎は鎮静化する。セロコンバージョンしないと慢性肝炎へと進展する。
③ 非活動性キャリア
セロコンバージョンが起こると多くの場合肝炎は鎮静化し、HBV DNA 量は低値となる。しかし 10~20%の症例でセロコンバージョン後、HBe 抗原陰性の状態で HBV が再増殖し、肝炎が再燃する。
④ キャリア離脱期
HBs抗原セロコンバージョンが起こると臨床的にはほぼ安心な状態といえます。すべてのB型肝炎患者の自然経過でここに達するのは年1%程度といわれています。

HBV感染の検査項目と感染状況
HBV-DNA | HBs抗原 | HBe抗原 | HBc抗体 | HBs抗体 | HBe抗体 | 感染状況 | ステータス | |
IgM | IgG | |||||||
陽性 | 陽性 | 陰性 | 現在感染( 血液中にウィルス) | 現感染 | ||||
陽性 | 陽性 | 陽性 | HBV増殖力、感染力強い。肝炎発症のリスク | 活動性キャリア | ||||
陽性 | 陰性 | 陽性 | 過去に感染 (血液中に微量ウィルス) | キャリア離脱期 | ||||
陰性 | 陰性 | 陽性(低力価) | 過去に感染( 血液中にウィルスない) | キャリア離脱期 | ||||
陽性(高力価) | 持続感染 (血液中にウィルス) | キャリア離脱期 | ||||||
陰性 | 陰性 | 陰性 | 陽性 | 過去に感染 (血液中にウィルスない) HBVワクチン接種 | キャリア離脱期 | |||
陽性 | 最近HBV感染 | 感染初期 | ||||||
陽性 | 陰性 | 陽性 | HBV増殖力、感染力弱い | 非活動性キャリア | ||||
陰性 | 陽性 | 陽性 | キャリア離脱期 |
治療目標 - 何を目指すべきか?
抗ウイルス治療の長期目標を“HBs 抗原消失”です。

日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 B型肝炎治療ガイドライン 第4版 2022年6月
抗ウィルス治療の適応
慢性肝炎における治療適応は、ALTが異常値、HBV DNA 量が高値、および組織学的な肝病変です。したがって、ALT が正常であり組織学的な肝病変がないか、あるいは軽度である2つの病態、すなわち、免疫寛容期にある HBe 抗原陽性の無症候性キャリアと、HBe 抗原セロコンバージョン後の非活動性キャリアには治療適応がありません。

日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 B型肝炎治療ガイドライン 第4版 2022年6月
2-10-2 慢性ウィルス性肝炎の治療
1990年代は慢性ウィルス性肝炎(慢性B型肝炎)の治療はインターフェロンのみで苦しい時代でした。慢性B型肝炎は2000年代にはいり核酸アナログ製剤が導入され、ウィルス陰性化できる時代になりました。今までは、「不治の病』だったウィルス肝炎・肝硬変が、「ほとんど治る病気」になりました。
2-10-2-1. 慢性B型肝炎の治療
最終的な目標は、HBs抗原の陰性化です。同時に肝機能の正常化(ALT30以下)を図ります。
慢性B型肝炎の治療対象
慢性肝炎症例の治療対象は、ALT値31U/L以上、HBV-DNA量3.3Log/mL以上です。
慢性B型肝硬変の治療対象
肝硬変に進行した場合、治療対象はHBV-DNAが陽性であれば治療対象です。
抗ウィルス治療
核酸アナログ製剤
B型肝炎ウイルスの遺伝子を作っているDNAの合成を阻害して、B型肝炎ウイルスが増えるのを抑制します。核酸(DNA)の材料となる物質に似た構造を持っているため「核酸アナログ」と呼ばれています。
古い核酸アナログ製剤は、服用を続けるうちに「耐性ウイルス」といって、薬が効かないウイルスに変異することがあります。当院では、耐性ウイルスとなりにくい薬で治療いたします。核酸アナログはエンテカビルか、新規のテノホビル(商品名ベムリディ®)を処方します。

日本肝臓学会 肝炎診療ガイドライン作成委員会 B型肝炎治療ガイドライン 第4版 2022年6月
エンテカビル(先発名バラクルード®)ETV
エンテカビル錠は、B型肝炎ウイルスが増えるときに必要になるたんぱく質(HBV DNAポリメラーゼ)の働きをブロックします。
それによって、ウイルスが増えるのを抑えることができます。
1日1回1錠を空腹時に服用します。
利点:耐性株(薬が効かないウイルス)の出現率が低い
耐性株(薬が効かないウイルス)の出現率は低く、抗ウイルス作用も強い薬です。
テノホビル アラフェナミドフマル酸塩(商品名ベムリディ®)TAF
未治療例ではテノホビルが第一選択薬と考えています。
従来のテノホビルの改良型で、2017年に新しく登場したB型肝炎ウイルスの増殖を抑える薬です。
血液で分解されにくいとこから飲む量が少なくて済み、骨や腎臓への副作用リスクを減らせる利点があります。妊娠について、今までの薬より安全です。
1日1回1錠を服用します。
利点:耐性株(薬が効かないウイルス)はほとんど出ない
ベムリディは耐性株の出現率が極めて低く、抗ウイルス作用も強い薬です。
主な副作用:吐き気、疲労、頭痛、腹部膨満などが報告されています。
ご自分の判断で服用を中止しないでください。
ベムリディは自己判断で中止したり、量を加減したりすると、病気が悪化したり、薬が効きにくくなる恐れがあります。医師の指示通りに飲み続けることが重要です。
核酸アナログ製剤服用中の注意事項
B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染します。核酸アナログ製剤を服用している間でもほかの人に感染する恐れがなくなるわけではありません。感染を広げないために具体的に以下のことに気をつけましょう。
●献血はしない
●歯ブラシ、カミソリ、ピアスなど血液がついている可能性のあるものを他人と共用しない
●血液や体液の付着したものは、むきだしにならないようにしっかり包んで捨てるか、流水でよく洗い流す
●外傷、皮膚炎、鼻血、月経血などはできる限り自分で手当てする
●他人の血液に触れるときはゴム手袋
●コンドームを正しく使用
ウイルスを排除できた患者さんは、肝がんの発生の危険度が低くなります。
しかし、発がんの可能性がゼロになるわけではありません。
定期的に肝臓の状態を観察するため、定期検査(血液検査や腹部エコー)を受けましょう。
2-10-2-3 慢性B型肝炎の医療費助成
医療費の助成
慢性B型・C型肝炎に対しては医療費助成が行われており、年齢や所得に応じて医療費が支給される高額療養費制度も受けられます。
現在、東京都では、慢性B型・C型肝炎の治療に対して、医療費の助成を行っています。400万円以上する治療が医療費助成で月1~2万円の自己負担になります。
当院では、医療費助成申請の手続きをサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。
肝炎検査の助成
初回精密検査費用助成
東京都では、検診で肝炎ウイルス検査で陽性と判定された後、初めて医療機関で受ける精密検査費用を助成しています。
対象費用
初診料
検査料(血液検査、超音波)
*1年以内前の検診でウィルス陽性と判定された方に限ります。早めの受診をお願いします。
肝炎ウィルス検診
杉並区では希望する区民の方に、B型・C型肝炎ウイルス検査の無料検査を実施しています。過去にB型・C型肝炎ウイルス検査を受けたことがない方はぜひ利用してください。定期的に杉並保健所3階で開催されています。