• 2025年7月16日
  • 2025年7月22日

高血圧症の薬物治療

高血圧の治療薬は以下の6種類です:

薬の種類  効果
カルシウム拮抗薬血管を広げて血液の流れをスムーズにして血圧を下げる
アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)血管を収縮させるアンギオテンシンⅡの作用を抑えることで血圧を下げる
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)アンギオテンシン変換酵素の働きを阻害することで、アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換を抑えて血圧を下げる
利尿剤水分の排泄を促すことで血液中の水分量を減少させ、血圧を下げる
β遮断薬心臓のβ受容体に作用し、心臓の拍動数を抑制することで血圧を下げる
α遮断薬血管の収縮を抑えることで血圧を下げる

カルシウムは血管の中の筋肉(=血管平滑筋)を収縮させます。

カルシウム拮抗薬は、血管を拡げて血液の流れをスムーズにします。

具体的には、血管の平滑筋細胞の中にあるカルシウムチャネルを阻害し、カルシウムイオンの流入を抑制します。

特に心臓の血管である冠動脈に作用し、心臓への血液の供給量が増加します。心臓への血液の流れが増えると酸素と栄養の供給が改善し、心筋の酸素不足による<狭心症の発作を予防する効果>が期待できます。

アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)は、血管を収縮させるアンギオテンシンⅡという物質の作用を抑えることで血圧を下げる薬です。アンギオテンシンⅡを取り込む受容体をブロックすることでその作用を抑制します。

アンギオテンシンⅡは、血管収縮やアルドステロンというホルモンの分泌を促進することで血圧を上昇させる物質です。ARBは、アンギオテンシンⅡと受容体の結合を阻害することで、アンギオテンシンⅡによる血管収縮やアルドステロンの分泌を抑制します。降圧については効果の大きい順に、アジルサルタン→オルメサルタン→テルミサルタン→イルベサルタン→カンデサルタン→バルサルタン→ロサルタンと言われています。

アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、アンギオテンシン変換酵素という酵素の働きを阻害することで、アンギオテンシンⅠからアンギオテンシンⅡへの変換を抑えることで血圧を下げます。アンギオテンシンⅡには血管を収縮させる作用があるため、これを抑えることで血圧が下がります。また、ACE阻害薬にはアンギオテンシンⅡ以外の物質の代謝や分解も抑制する作用があり、これによって<血管内皮機能の改善や心機能の保護>などの効果も期待できます。

ACE阻害薬は高血圧の治療によく使用されるほか、<心不全や糖尿病性腎症>などの治療にも使用されることがあります。

利尿剤は、水分の排泄を促すことで血液中の水分量を減少させ血圧を下げます。むくみや浮腫も改善します。

サイアザイド系利尿薬は、遠位尿細管で作用する利尿薬で、高血圧や浮腫の治療に使用します。以前はあまり使用されていませんでしたが、最近の臨床試験で他の降圧薬との併用による効果の増強が示されたことから、現在は<高血圧治療において重要な薬剤>です。アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)やカルシウム拮抗薬と併用すると、効果の増強が期待できます。

β遮断薬(βブロッカー)は、心臓のβ受容体に作用し、心臓の拍動数を抑制することで血圧を下げます。心拍数が抑制されることで心臓の負担が軽減され、血圧が下がります。

高血圧、頻脈性不整脈、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)、心不全などに使用されます。これらの症状は、交感神経の活性化によって引き起こされることがあり、β遮断薬が交感神経のβ1受容体をブロックすることにより、心臓の負担を軽減します。

α遮断薬は、血管の収縮を抑えることで血圧を下げます。交感神経がα1受容体を刺激すると血管が収縮します。α遮断薬は、α1受容体をブロックすることで血管の収縮が抑えられ、血圧が下がります。

α1受容体は前立腺や尿道などにも存在し、薬剤によってはこれらの受容体を阻害することで尿道を広げ、排尿をスムーズにする効果もあります。

ナトリウム利尿ペプチドは、心臓・血管・体液量の維持などに深く関わるホルモンとされ、利尿作用や血管拡張作用があります。またナトリウム利尿ペプチドには、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系を抑制する働きもあります。ネプリライシンはナトリウム利尿ペプチドを分解する体内物質で、このネプリライシンの働きを阻害することによって、ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑え、ナトリウム利尿ペプチドによる心臓保護作用などを増強させます。エンレストはネプリライシンを阻害するサクビトリルとレニン・アンジオテンシン系を阻害するARBのバルサルタンの2つの成分の合剤で優れた降圧作用と心保護作用を示します。

体内の血圧を上げる原因の一つにアルドステロンというホルモンがあリます。アルドステロンは腎臓の尿細管で水分やナトリウムを血管内へ吸収し、血管に流れる血液量を増加させ血圧を上げます。アルドステロンは心臓や血管、脳などにも作用し、心筋の線維化や心臓を肥大化する作用、血管の炎症反応などを亢進させる作用、腎臓障害に関わる作用をもちます。

MR拮抗薬はアルドステロンが作用する鉱質コルチコイド受容体に拮抗的に作用することで抗アルドステロン作用をあらわし、尿細管などにおけるアルドステロンの働きを阻害し血圧を下げます。MR拮抗薬は心臓の肥大を抑えるため、慢性心不全などの治療にも使われます。

グループ薬剤特徴
G Iaカルシウム拮抗薬 RAS阻害薬(ARB,ACE阻害薬)主要降圧薬 STEP1から病態に応じて用いる 高血圧における脳心血管イベント抑制のエビデンス忍容性に優れる
bサイアザイド系利尿薬 β遮断薬本来投与されるべき病態への使用頻度が少なく、積極的な投与が望まれる
G IIARNI MR拮抗薬STEP2から病態に応じて用いる 脳心血管イベント抑制のエビデンスは確立していない
G IIIα遮断薬 ヒドララジン 中枢性交感神経抑制薬治療抵抗性高血圧や特殊な病態で用いる

降圧薬の併用ステップにおけるグループ分類

最初に使用すべき薬

高血圧の治療を初めて開始する際は、下記の4種類の薬が第一選択薬とされています。

  • カルシウム拮抗薬
  • アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
  • アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)
  • 利尿剤

日本では、カルシウム拮抗薬かアンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)を使用し、血圧が十分に下がらない場合に利尿薬を使用する方法が一般的です。

なお、心不全や狭心症のある方や心筋梗塞が起きたことがある方については、β遮断薬を最初に使用することが検討されます。第一選択薬については、副作用や禁忌なども踏まえて決定するため、必ずしもこれらの薬が選ばれるとは限りません。

降圧薬の使い方

病状によっては使用が推奨される薬

病状によっては使用が推奨される薬は、下記の3種類です。

  • アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)
  • アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)
  • カルシウム拮抗薬

蛋白尿がある場合は、アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)やアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)、狭心症がある場合はカルシウム拮抗薬など、合併症の種類によっては使用が推奨される薬があります。

医師の判断や病状、合併症の重症度などさまざまな要素を踏まえて決定します。また、使用する薬の組み合わせ方、服用量についても個々に合わせて決められます。

高血圧の薬を飲むことができないケース

アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬(ARB)とアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害)は、妊娠中に使用すると胎児に悪影響が及ぶ可能性があります。そのため、妊娠の可能性がある方、妊娠している方は、医師の指示のもとで使用を中止することが基本です。

また、β遮断薬も喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの気管支疾患がある方は服用できません。これは、β遮断薬に気管支を収縮させる作用があるためです。普段から咳が出ている、たまにひどい咳が出るといった場合も、その旨を医師に伝えてください。これらの他にも、禁忌とされているケースがあります。

使用できる薬を判断するために持病や妊娠の有無、服用している薬などについて質問されるので、正確に回答してください。

主要降圧薬の積極的適応

 Ca拮抗薬ARB/ACE阻害薬サイアザイド系利尿薬β遮断薬
左室肥大⚫︎⚫︎  
LVEF低下心不全 ⚫︎⚫︎⚫︎
頻脈⚫︎  ⚫︎
狭心症⚫︎  ⚫︎
心筋梗塞後 ⚫︎ ⚫︎
蛋白尿・アルブミン尿を伴うCKD ⚫︎  

主要降圧薬の禁忌や慎重投与となる病態

薬剤禁忌慎重投与
Ca拮抗薬徐脈 (非ジヒドロピリジン系)心不全
ARB妊娠腎動脈狭窄症 高カリウム血症
ACE阻害薬妊娠 血管神経性浮腫 血液透析腎動脈狭窄症 高カリウム血症
サイアザイド系利尿薬体液中ナトリウム・カリウム減少痛風 妊娠 耐糖能異常
β遮断薬喘息 高度徐脈 褐色細胞腫耐糖能異常 閉塞性肺疾患 末梢動脈疾患

降圧剤の使い方

降圧治療の最終目的は、脳血管病発症の予防です。まずは単剤から始めますが、単剤での目標達成率は4割です。多くは二剤以上の併用療法が必要となります。ひとつの降圧剤で効果不十分な場合、その薬を増量するより、他の降圧剤を追加する方が効果が高いことが分かっています。II度(160/100mmHg)以上の高血圧は最初から2剤併用が認められています。2剤で効果がない場合は、3剤、4剤併用としていきます。また、2剤・3剤併用することによって、お互いの副作用を打ち消す効果もあります。

1剤目 Ca拮抗薬(アムロジピン、アダラートCR)

1剤目はCa拮抗薬です。

Ca拮抗薬は、切れ味がよく血圧がスッと下がります。また、副作用が少ないです。さらに、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン系に影響を及ぼしにくいです。高血圧症の原因として、原発性アルドステロン症があります。スクリーニングのためには、レニン活性と血中アルドステロン濃度を測定します。レニンとアルドステロンの値は、Ca拮抗薬では影響を受けませんが、ARBやサイアザイド系利尿薬は影響を受けます。そのため、原発性アルドステロン症のスクリーニングを終えるまではCa拮抗薬を使用しておくのが無難です。

アムロジピン2.5~5 mg/dayから始めます。血圧が高い場合、特に160mmHgを超える場合は、より降圧作用の強いアダラートCR 20mgから開始することも検討されます。

アムロジピンは、Ca拮抗薬の中でも最もよく使用されています。血圧を緩やかに下げます。1か月かけてジワジワ下がるイメージです。他剤と比較して副作用が比較的少ないので、初めてでも使いやすいです。アムロジピンは合剤が多いのも特徴です。多剤併用を想定すると、1剤目として非常にいい薬です。開始用量は2.5~5 mg/dayで、最大10 mg/dayまでです。

ニフェジピンの徐放錠です。もともとニフェジピンは半減期の短い薬剤です。降圧効果も長く続かないため、日常的に使用する降圧薬としては不向きでした。そこでニフェジピンの徐放錠が登場しました。24時間、降圧効果が維持できます。

ニフェジピンCRは、降圧効果が高いです。アムロジピンがゆっくり血圧を下げる一方、アダラートCRは内服後早期から血圧が低下することが期待できる「切れ味のいい薬」です。そのため、血圧がかなり高く、すぐに降圧したい場合に良い選択肢になります。開始用量は10~20 mg/day、最大用量は80 mg/dayです。

2剤目 ARB(テルミサルタン)

Ca拮抗薬で降圧不十分の場合は、2剤目としてARBを使用します。サイアザイド系利尿薬よりも副作用が少ないです。原発性アルドステロン症のスクリーニングが終了していることが必要です。

合剤の多いテルミサルタン20 mg/dayが選択されることが多いです。腎機能が悪い場合は、10 mg/dayから始めることも検討します。副作用の腎機能低下、高K血症には注意が必要です。

3剤目 サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロチアジド)

2剤使用しても降圧目標に達しない場合は、3剤目のサイアザイド系利尿薬を追加します。ヒドロクロロチアジド6.25~12.5 mg/dayで開始します。副作用としては、腎障害、低K血症、高尿酸血症、耐糖能異常があります。特に夏場は脱水になりやすいので注意が必要です。

併用療法の組み合わせ

第一選択:

ACE阻害 or ARB + Ca拮抗薬

ACE阻害 or ARB + 利尿薬

Ca拮抗薬 + 利尿薬

第二選択:

ACE阻害 or ARB + Ca拮抗薬 + 利尿薬

第三選択:

ACE阻害 or ARB + Ca拮抗薬 + MR拮抗薬

ACE阻害 or ARB + Ca拮抗薬 + β遮断薬

ACE阻害 or ARB + Ca拮抗薬 + α遮断薬

*MR拮抗薬:腎臓の尿細管に存在するミネラルコルチコイド受容体MR)を阻害しアルドステロンの作用を阻害することで降圧効果。スピロノラクトン(アルダクトンA)、エプレレノン(セララ)、エサキセレノン(ミネブロ)

配合薬

これらの複数の薬を1つにまとめた、“配合薬”があります。2つの薬が1つにまとまっているので便利です。2種類の薬を別々に内服するより、配合剤にした方が降圧効果が高いとするデータがあります。

主な配合薬

ARB+Ca拮抗薬

ARB+利尿薬

ARB+Ca拮抗薬+利尿薬

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