• 2025年7月14日
  • 2025年7月22日

糖尿病

血液中のブドウ糖が過剰な状態になり、血管に負担をかけてしまう病気です。脳梗塞や心筋梗塞など重大な疾患の原因となる動脈硬化リスクが高くなるだけでなく、毛細血管にもダメージを与えて深刻な合併症を起こします。失明、腎不全による人工透析、壊疽による足の切断などにつながることがあります。
早期に発見して生活習慣の改善など適切な治療をすれば、合併症を回避できます。逆に進行するにつれてコントロールが難しくなり、動脈硬化や合併症リスクが高くなってしまうため、早めに受診するようおすすめします。

糖尿病の診断

糖尿病の診断には、血液検査や尿検査、問診などを行います。糖尿病の診断基準は、次のとおりです。

• 空腹時血糖値が126mg/dL以上、または食後の血糖値が200mg/dL以上
• ヘモグロビンA1c(HbA1c)が6.5%以上

血糖値のみでは1回の検査で確定診断できないため、別の日に行った検査で2回以上確認する必要があります。また、HbA1cは1~2カ月の血糖の平均レベルを反映した指標で、6.5%未満であってもそれに近い数値の場合、糖尿病の可能性が否定できません。
糖尿病の検査には、次のようなものがあります。

75g経口ブドウ糖負荷試験(75g OGTT)
尿蛋白検査
血清クレアチニン検査

糖尿病のタイプ

糖尿病は、1型・2型に分けられ、全体の約95%が2型とされています。


1型


膵臓の膵β細胞が破壊されてインスリンを分泌できないため、上がってしまった血糖値を下げられない状態です。主な症状はのどの渇きと多飲・多尿です。免疫のはたらきの異常が原因で、生活習慣とは関係なく発症します。若い人の発症が多いです。インスリンを補充する治療によって血糖値のコントロールができるようになれば、以前とほとんど変わらない生活を送ることもできます。また、重症の場合には、膵臓移植や、同時に腎臓移植などを行うこともあります。

1型糖尿病の検査:
• 血糖値やHbA1cなどの一般的な糖尿病の検査
• 血中や尿中のケトン体測定
• 血液中の自己抗体(GAD抗体、IA-2抗体、インスリン自己抗体IAA、ZnT8抗体)測定
• 血中Cペプチド値や尿中Cペプチド値の測定

2型


過食、運動不足、肥満などの生活習慣に、遺伝的要因、ストレス、加齢、他の病気などが関与して発症します。妊娠中の糖代謝異常によって起こることもあります。高血圧や脂質異常症、肥満などをともなうケースが多く、その場合には動脈硬化が進みやすいため、血糖・血圧・血中脂質・体重などをしっかりコントロールする必要があります。

糖尿病の合併症

血糖が毛細血管にダメージを蓄積させて、様々な血管合併症を引き起こします。糖尿病の合併症として特に発症頻度が高いのは、網膜症・腎症・神経障害です。失明・腎不全による人工透析、壊疽による足の切断など深刻な状態につながる可能性があります。動脈硬化による脳梗塞や心筋梗塞だけでなく、こうした合併症を防ぐためにも生活習慣改善と適切な治療を続けて血糖値をコントロールする必要があります。

糖尿病の治療

生活習慣の改善は、血糖値のコントロールだけでなく、適切な血圧・血中脂質・体重を保つためにも重要です。バランスの取れた食事を1日3回規則的にとり、習慣的に運動しましょう。早期であれば生活習慣の改善だけで十分な効果が得られます。こうした生活習慣改善は続かなければ意味がありません。当院では、できるだけ無理せずに続けていけるよう、親身にアドバイスをしています。なお、生活習慣の改善だけでは効果が得られない場合には、内服薬の処方やインスリン注射などの治療も行います。

カーボカウント

カーボカウントは、食事に含まれる炭水化物の量を計算して血糖値をコントロールする糖尿病の食事療法です。1型糖尿病で追加インスリン量の調整に使用します。また、カーボカウントによる血糖値の改善が報告されています。

カーボカウントの手順:
食品の炭水化物量を把握する
食材の炭水化物量を計量する
食事に含まれるすべての食品の炭水化物量を合計する
食事中に摂取した炭水化物の量をトラッキングする
必要に応じて摂取量を調整する

食品の炭水化物量は、栄養成分表示や食品の炭水化物量を示す情報源から確認できます。日本においては、多くの施設で炭水化物(糖質)1カーボを10gとカウントしています。これは、日本の食品交換表は1単位が80kcalであり、炭水化物(糖質)20gに相当することから、計算がしやすくなるためです。

早見表や栄養成分表示を確認してカーボカウントするのは大変です。以下の簡易法でもよいです:

日本人の平均では1食あたり糖質90〜100g、1日の総糖質摂取量で270〜300gと言われています。糖質制限“ロカボ”(low carbohydrateの略)は大体半分以下くらい、1日の総摂取量を70〜130gに糖質摂取を抑える感覚です。1食あたりの糖質量を20〜40gで3食食べ、それとは別に間食を1日あたり10gの間食をとります。

低GI食

同じ炭水化物、同じカロリーでも血糖値が急激に上がるものと、緩やかに上がるものがあります。血糖の上がるスピードを、“Glycemic Index グリセミック・インデックス”=GIと呼びます。高GI食は血糖値が急激に上がるので、膵臓は血糖値を下げるために大量のインスリンを分泌します。インスリンは微調整ができないため、一気に分泌されて血糖値が急降下し、低血糖を引き起こす可能性があります。低血糖により空腹感や疲労感、集中力の低下を引き起こしてしまいます。また、血糖値の急上昇と急降下を繰り返すと、血管にダメージを与えて糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害などの合併症を引き起こす可能性があります。

低GI食は、糖が穏やかに吸収されるため、インスリンを分泌しすぎることなく糖を処理できます。健康的な食生活を送るには、GI値の低い食品を選ぶように心がけましょう。

食物繊維

食物繊維は小腸での栄養吸収を緩やかにして急激な血糖上昇を防ぎます。食物繊維を十分に摂取すると糖尿病が改善することが知られています。低GI食と組み合わせると、さらに効果的です。

レジスタンス運動と有酸素運動

糖尿病の治療には、有酸素運動とレジスタンス運動(筋力トレーニング)が有効で、特に組み合わせて行うと効果が高まります。
有酸素運動とレジスタンス運動のそれぞれの効果は次のとおりです。
• 有酸素運動:筋肉への血流が増えてブドウ糖が細胞に取り込まれ、血糖値が低下します。また、インスリンの効きやすさを改善します。
• レジスタンス運動:筋肉量が増えることで基礎代謝量が増え、エネルギー消費量が増加します。これにより、インスリンの効きやすさが改善し、血糖値が下がりやすくなります。
有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせると、血糖値やHbA1c値が相乗的に低下する効果が期待できます。また、糖尿病患者では、レジスタンス運動後に有酸素運動を行うと、運動中の血糖安定性が向上し、運動後低血糖の期間と重症度が低下する報告もあります。
運動を行う際は、次の点に注意しましょう。
• 運動の強さは、心拍数が目安になります。50歳未満の方は1分間に100~120拍、50歳以上の方は100拍以上にならないようにしましょう。
• 運動は毎日することが理想ですが、自分の状態や合併症、基礎的な体力、年齢、体重などを考え合わせ、無理をせずに少しずつ運動量を増やしましょう。
• インスリン分泌促進薬やインスリン療法を行っている方は、食前や空腹時の運動は低血糖を引き起こすことがあるので避けましょう。
• 運動をする際は、こまめに水分補給をし、脱水にならないようにしましょう。

レジスタンス運動の例
レジスタンス運動とは、筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動です。

有酸素運動の例
有酸素運動とは、体内の糖や脂肪を酸素とともにエネルギー源として利用しながら、筋肉を収縮させる運動です。
ウォーキング
ジョギング
サイクリング
水泳
エアロビクス
ダンス
縄跳び

有酸素運動は、中郷土で週に150分かそれ以上、運動をしない日が2日以上続かないようにしましょう。レジスタンス運動は、連続しない日程で週2-3回行いましょう。可能であれば有酸素運動とレジスタンス運動の両方を行いましょう。

薬物療法

基本的な療法である食事療法と運動療法だけでは血糖をコントロールできない場合、薬物療法を行うことになります。

糖尿病の治療の流れ


糖尿病標準診療マニュアル2024 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会

まずは、1型糖尿病などインスリン絶対適応の有無を評価します。続いて、血糖300mg/dL以上などのインスリン相対適応を評価します。インスリン適応なしのときは、食事運動療法を開始します。反応ない場合は、ビグアナイド薬から開始します。反応ない場合はDPP4阻害薬を追加します。反応ない場合は、さらに1剤(SGLT2阻害薬、SU薬、αグルコシダーゼ阻害薬)を追加します。

経口血糖降下薬は糖尿病の病態(インスリン抵抗性増大、インスリン分泌低下、高血糖状態)に合わせて薬剤が選択されます。

経口血糖降下薬は作用機序の違いによって、副作用、低血糖リスク、体重変化に特徴があります。患者背景によって各薬剤の特徴に合わせた選択をします。

糖尿病血糖降下配合薬

糖尿病の配合薬は、作用の仕組みが異なる2つの薬剤を1つの錠剤にした飲み薬です。服薬錠数や回数を減らすことで服薬忘れを減らし、糖尿病のコントロールを改善し、合併症の発症予防を図ることができます。

インスリン治療

1型糖尿病、2型糖尿病でも経口血糖降下薬で血糖管理がうまくいかない場合、妊婦はインスリン療法の適応になります。

インスリン療法というと血糖管理が上手くいかない場合の最終手段とされていましたが、インスリン製剤が飛躍的な進歩をとげ、インスリン療法を取り巻く環境は今なお進化しています。最近では、合併症の予防を目的に「早期から良好な血糖管理を実現する」という治療の概念に基づいて積極的なインスリン導入が推奨されています。1型糖尿病のみならず2型糖尿病にも広く受け入れられ導入されています。

糖尿病治療注射薬

追加インスリンと基礎インスリンとは、健康な人のインスリン分泌パターンを再現するために、インスリン治療で用いられるインスリンの2つの種類です。

追加インスリン


食事によって血糖値が上昇したときに分泌されるインスリンで、血糖値の上昇を打ち消す役割があります。超速効型や速効型のインスリンが使用されることが多く、食事開始後20分以内に投与することもできます。

基礎インスリン


24時間かけて一定の割合で分泌されるインスリンで、空腹時や夜間の血糖値を下げる役割があります。中間型や持効型溶解インスリンが使用されることが多く、1日1回注射されます。

よくある質問

Q1. カロリーゼロ甘味料で糖尿病は改善しますか?

砂糖の摂取量を減らすために、人工甘味料への置き換えが2010年代前半に進みました。しかし、人工甘味料により腸内細菌叢が変化し、腸管内に短鎖脂肪酸が増加し、耐糖能異常をきたすことが分かってきました。また、心臓発作や脳卒中リスクを高めたり、不安症を発症するリスク、発がん性、血栓リスクが報告されています。長期的にみても体重減少や体脂肪減少の効果がないとされています。世界保健機関(WHO)は、「減量や生活習慣病の予防のために人工甘味料を使用しないように」と提言しています。日本糖尿病学会も人工甘味料の使用を推奨していません。

Q2. 糖尿病は遺伝しますか?

2型糖尿病は遺伝傾向が強いので、家系内の血縁者に糖尿病の方が多いのが特徴です。家系内に糖尿病患者がいる場合、発症リスクは3.5倍になります。しかし、遺伝因子は非常に複雑で、糖尿病は『遺伝学者の悪夢』と言われています。その発症には加齢、肥満が関係し、過食、運動不足などの生活習慣(環境因子)も引き金(誘因)になります。いわゆる「生活習慣病」の一つです。身内・血縁者に2型糖尿病の方がいらっしゃる場合は、これら生活習慣の悪化に注意しましょう。
1型糖尿病の場合は、遺伝傾向は2型より少ないです。その発症は自己免疫によることが多く(自己免疫疾患の一つです)、肥満や生活習慣は関係ありません。すなわち、1型糖尿病は生活習慣病ではありません。

Q3. 糖尿病で治療中も車の運転はできますか?

糖尿病患者の車の運転を制限する法律はありません。車の運転は可能です。
ただし、血糖降下薬による低血糖が非常に危険です。
通常、低血糖になった場合、空腹、発汗、ふるえ、疲労、脱力感、思考力低下などの症状がでます。その場合は速やかに甘いもの(あめ、キャラメル、ジュース)などを摂りましょう。すぐ甘いものを補充できるよう、車内に常備しておきましょう。また空腹時の運転は避けましょう。運転前の血糖測定も有効です。もし100mg/dL以下であれば糖分を摂取してから運転しましょう。
低血糖症状のないまま意識消失する、“無自覚性低血糖”が最も危険で交通事故のハイリスクです。血糖コントロールが不良で、低血糖を繰り返し起こしている患者に多いとされています。2014年に道路交通法が改正され、無自覚性低血糖の虚偽申告に対して厳しい罰則が設けられました。無自覚性低血糖の方は運転前に必ず血糖測定が必要です。

Q4. 糖尿病患者はワクチンを打っても良いですか?

糖尿病患者は一般的に感染に弱いとされています。肺炎、尿路感染、皮膚感染が重症化しやすいことが分かっています。また感染時に糖尿病のコントロールも増悪します。感染を予防することは非常に重要です。インフルエンザ、肺炎球菌、コロナワクチンは強く推奨されます。
またB型肝炎予防ワクチン、水痘ワクチンも推奨されています。また過去に罹患がなければ麻疹・風疹・流行性耳下腺炎ワクチンも推奨されています。
基本的に受けれるワクチンは全て接種することをお勧めします。

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