- 2025年7月16日
- 2025年7月22日
高血圧の診断
血圧とは、血液が血管の壁にぶつかる圧です。心臓が収縮すると血液は押し出されて血圧が高くなります。これが”収縮期血圧”です。心臓が拡張すると血圧が下がります。これが拡張期血圧です。高血圧は、収縮期が140mmHg以上、拡張期が90mmHg以上とされています。血圧は時間帯(朝は血圧が高い)や自律神経のバランスで変動するため1回血圧を測ってこの数値を超えたら高血圧というわけではありません。ただし高い数値が出たら診察を受けることが重要です。
高血圧が続くと血管に大きな負担をかけ、動脈硬化が進行します。動脈硬化により心筋梗塞や脳梗塞、狭心症や腎臓病を発症するリスクが高くなります。高血圧は脳出血の最大のリスク要因とされています。我が国の高血圧患者数は4300万人と推定され、そのうち約4分の3に当たる3100万人が適切に管理されていない状態にあります。血圧が高めの場合には、早めに受診して適切な治療を続けましょう。

成人における血圧値の分類
高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会
高血圧の原因
生活習慣病の高血圧は、過剰な塩分摂取・喫煙・飲酒・運動不足・ストレスといった生活習慣にくわえ、遺伝的要因などが関わって発症していると考えられています。生活習慣病の代表的な疾患です。
高血圧の治療
高血圧の予防や改善には、次のような生活習慣の改善が有効です。
- 減塩(6g/日未満)
- 野菜・果物の積極的摂取(15歳以上で1日3,500mg以上のカリウム)
- コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える
- 魚(魚油)の積極的摂取
- 減量(適正体重維持:BMI25未満)のための適切なカロリー摂取
- 運動(毎日30分程度、または180分/週以上の軽強度の有酸素運動=ジョギング、水泳、自転車、ウォーキング)
- 節酒(エタノールで男性20-30g/日以下、女性10-20g/日以下)
- 禁煙
これらの習慣化が不可欠です。当院では無理のない範囲で続けられるよう患者様と相談し、具体的なアドバイスを心がけています。数値があまり悪くなければ軽い生活習慣の改善だけで十分な効果を得られることもよくあります。生活習慣の改善だけでは効果が得られない場合には薬の処方も行います。
様々なタイプの薬剤がありますので、患者様のライフスタイルなどにきめ細かく合わせた処方を心がけています。なお、血圧計を購入して家庭でもこまめに血圧を計測して記録することをお勧めしています。
高血圧の診断は以下の3ステップで進めます
- ステップ1:血圧高値が継続していることの確認とそのレベルの評価
- ステップ2:二次性高血圧の除外
- ステップ3:危険因子、臓器合併症、脳心血管病などの予後影響因子の評価
ステップ1:
白衣高血圧や仮面高血圧などの可能性もあるため、まずは血圧が高い状態が続いていることを確認します。その上で、血圧の値に応じてどの血圧レベルに当てはまるかを評価します。
ステップ2:
二次性高血圧は、特定の原因により引き起こされる高血圧です。全高血圧患者の10%以上に上ります。
高血圧は原因が明らかではない本態性高血圧と、基礎疾患や外的誘因による二次性高血圧に分類されます。
本態性高血圧は、家族歴があり、若年から血圧がやや高く、加齢に伴って徐々に上昇します。食塩過剰摂取、運動不足、肥満、ストレスなどの後天的な要因も関与します。中高年になってから発症する高血圧、急速に発症した高血圧、重症高血圧などは二次性高血圧を考慮します。
二次性高血圧では血圧値に比較して臓器障害(心臓[左室肥大]、眼底、腎臓など)が高度であることが多いです。
二次性高血圧の特徴:
- 若年発症の高血圧
- 中年以降発症の高血圧
- 急速に発症した高血圧
- 重症高血圧
- 治療抵抗性高血圧
- それまで良好だった血圧の管理が難しくなった場合
- 血圧値に比較して臓器障害が強い場合・ 血圧変動が大きい場合
二次性高血圧の原因
原因疾患 | 治療抵抗性高血圧患者における有病率 | 症状 | スクリーニング検査 |
睡眠時無呼吸症候群 | 30% | いびき、肥満、日中眠気、早朝夜間高血圧 | 睡眠ポリグラフィー |
原発性アルドステロン症 | 23% | 低カリウム血症、副腎腫瘍、夜間多尿 | 血漿レニン活性、血漿アルドステロン濃度、負荷試験 |
腎実質性高血圧 | 10% | 腎機能障害、蛋白尿、血尿 | 血清クレアチニン、尿検査、腹部超音波 |
腎血管性高血圧 | 20% | ACE阻害薬投与で腎機能悪化、腎サイズ左右差、低カリウム血症、腹部血管雑音 | 血漿レニン活性、腎動脈超音波 |
甲状腺機能低下症 | 3% | 徐脈、浮腫、活動性減少 | 甲状腺ホルモン(FT3, FT4)、TSH、自己抗体 |
甲状腺機能亢進症 | 頻脈、発汗、体重減少 | ||
原発性副甲状腺機能亢進症 | 2% | 倦怠感、食欲不振、骨粗鬆症、腎結石 | 副甲状腺ホルモン、カルシウム、リン |
クッシング症候群 | 1% | 満月様顔貌、中心性肥満、高血糖、コレステロール上昇、骨粗鬆症 | コルチゾール、ACTH、尿中遊離コルチゾール、腹部CT、デキサメサゾン抑制試験 |
褐色細胞腫 | 1% | 発作性動揺性高血圧、動悸、頭痛、発汗、高血糖 | 血清尿カテコールアミン、尿中カテコールアミン代謝物(メタネフリン、ノルメタネフリン)腹部CT |
大動脈縮窄症 | 1% | 血圧上下肢差、血管雑音 | 胸腹部CT |
薬剤誘発性高血圧 | 薬物使用歴、低カリウム血症、、動揺性高血圧 | 薬剤使用歴の確認 |
特に有病率が高いのは「睡眠時無呼吸症候群」「原発性アルドステロン症」「腎実質性高血圧」「腎血管性高血圧」です。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の最も頻度の高い原因で、心血管疾患の危険因子でもあります。肥満や加齢が発症に関与しますが、我が国では非肥満例が多いことも特徴です。昼間の眠気や集中力の低下、抑うつ状態といった自覚症状に加え、家族などからいびき、無呼吸の報告があれば、積極的なスクリーニング検査が望まれます。
原発性アルドステロン症
高血圧患者全体の有病率は1.4~10%で、典型例では低カリウム血症を認めます。心血管合併症が本態性高血圧患者の3~5倍多く、「若年での脳卒中発症」は原発性アルドステロン症の有病率が高いことが特徴です。
スクリーニング検査としては、血漿レニン活性(PRA)と血漿アルドステロン濃度(PAC)の同時測定を随時採血(午前中、座位)で行います。陽性か陰性かは、PAC値およびアルドステロン/レニン比(ARR)に基づいて評価しますが、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、β遮断薬、直接的レニン阻害薬によるPACの抑制や、ACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)によるARRの低下など、偽陰性には注意しなければなりません。
腎実質性高血圧
腎実質性疾患による体液量の増大やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の亢進などが関与して起こる高血圧を腎実質性高血圧と呼びます。ただし、高血圧が原因で慢性腎臓病(腎硬化症)が生じることもあり、両者の鑑別は容易ではありません。
腎血管性高血圧
腎動脈や腎内の比較的大きな血管に狭窄あるいは閉塞が生じて発症する高血圧です。狭窄の原因は年齢で異なり、若年者では線維筋性異形成、高年者では動脈硬化が多いとされています。レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬投与後の腎機能悪化、腎サイズの左右差、低カリウム血症、腹部血管雑音に加え、突然発症型肺水腫が特徴です。腎動脈超音波検査でスクリーニングを行い、必要に応じて造影MRI/CTを行います。
ステップ3:
最後に予後に影響し得る因子がないかを検証します。血圧値の分類と因子の種類や数に応じて、脳心血管病リスクを層別化します:

診察室血圧に基づいた脳心血管病リスク層別化(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 “高血圧治療ガイドライン2019”)
JALSスコアと久山スコアから得られる絶対リスクを参考に、予後影響因子の組み合わせによる脳心血管病リスクの層別化。予後影響因子は、血圧、年齢(65歳以上)、男性、脂質異常症、喫煙、脳心血管病(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞)、非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿のあるCKD。
高血圧の診断が付いたら、次は今後の管理計画を立てます。生活習慣の修正は、正常高値血圧も含め、全例で実施しましょう。

初診時の血圧レベル別の高血圧管理計画
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会 “高血圧治療ガイドライン2019”
高血圧の予後影響因子の“高リスク”とは;
- 血圧
- 年齢(65歳以上)
- 男性
- 脂質異常症
- 喫煙
- 脳心血管病(脳出血、脳梗塞、心筋梗塞)の既往
- 非弁膜症性心房細動
- 糖尿病
- 蛋白尿のあるCKD
上記に当てはまる方は、より厳格な血圧管理が必要となります。