- 2025年7月16日
非アルコール性脂肪肝
余った炭水化物や脂肪は、中性脂肪やグリコーゲンに置き換えられて肝臓に貯蔵されます。肝臓に脂肪が貯まりすぎると肝細胞にも影響が起きます。肝細胞の30%以上脂肪が貯まった状態を“脂肪肝”といいます。脂肪肝というと、飲酒によるアルコール性脂肪肝を考えてしまいがちです。飲酒歴もないのに肝臓に脂肪が貯まりすぎてしまう「非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)」「代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(MASLD)」が近年増加しています。MASLDは2020年にアメリカ、ヨーロッパで提唱された新しい疾患概念で、メタボリックシンドロームを基盤とした糖尿病、脂質異常症などの代謝機能の異常に関連した脂肪肝です。MASLDは新しい疾患概念ですが、海外そして日本の研究では、NAFLDと診断された方の96~98%はMASLDと診断が一致すると報告されています。脂肪肝はそれ自体では自覚症状はまず現れず、健康診断などの結果判明することがほとんどです。特に症状がなく、肝炎でもないため、脂肪肝の指摘があっても放置してしまう方も多いのですが、やがて肝細胞が変質して肝硬変や肝がんにも移行しやすい状態です。
NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:ナッフルディーまたはナッフルド)は、飲酒歴がほとんどないにもかかわらず、肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積されてしまう脂肪肝です。原因としては肥満、糖尿病、ストレス、昼夜逆転、運動不足、睡眠時無呼吸などの生活習慣が大きく関わっています。油物を食べていなくとも、糖分(砂糖や果糖)や炭水化物でも必要以上を摂取すると、糖質は中性脂肪に形を変えて肝細胞の中に蓄えられますので脂肪肝を発症します。
内臓肥満は肝臓だけではなく全身に影響を与えており、心筋梗塞や脳梗塞等といった病気の原因である動脈硬化の進行を早めたり、糖尿病悪化に影響を与えたりします。大腸がん、膵臓がん、子宮がんの発生にも影響を及ぼします。
日本では、NAFLDの有病率は約3割と高率で、推定で2000万人前後の潜在患者がいると考えられています。高齢化の進行や肥満・メタボリックシンドロームなどの増加に伴って、なお増加していると考えられています。
NAFLDの発症や悪化には体質(遺伝的な原因)や腸内細菌など、肥満や生活習慣以外の要因も影響することが明らかになってきました。肥満ではないのに、NAFLDであるひとも決して少なくはありません。日本では、NAFLD患者さんの20%が非肥満であると推定されています。PNPLA3という遺伝子は、肝臓の細胞の中の、脂肪を処理する機能において重要な働きをしています。PNPLA3の働きが弱い遺伝子型を持つ人の割合は、日本人では比較的高く、30%前後と推定されています。日本人における非肥満のNAFLD患者さんの割合が高く、またNAFLDの患者さんの死因として、欧米よりも肝硬変や肝臓がんが多い理由の一つと考えられています。
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)
NAFLDには、単純に肝臓に中性脂肪が蓄積されすぎているだけの単純性脂肪肝(NAFL)と脂肪の蓄積によって肝細胞に障害が起こり、炎症や繊維化がみられる非アルコール性脂肪肝炎(NASH=ナッシュ)があります。脂肪でパンパンにはれた肝細胞が破裂します。壊れた細胞の残骸を処理するために白血球が集まり炎症が起きるのです。
どちらもほとんど自覚症状のない疾患ですが、NASHでは肝細胞の障害がすすむことで肝硬変や肝がんに移行するリスクがあります。
肝炎と異なり脂肪肝は自覚症状が現れないことから、健康診断などで指摘を受けてもつい放置しがちです。NAFLDの罹患者のうち2~3割がNASHであることが報告されているため、NAFLDの疑いが指摘された場合は、まずは医療機関に相談し、生活習慣の改善と必要であれば適切な治療を受けて肝細胞の繊維化をできるかぎり防いでいく必要があります。
脂肪肝と腸内細菌
最近の研究で、肥満により腸内細菌が肝臓に侵入して細菌毒素に暴露された肝臓が炎症をおこして脂肪肝炎になることが明らかになってきました。肝臓は“門脈”という血管で腸とつながっています。脂肪肝が肝炎、肝硬変、肝臓がんに進展していくメカニズムは不明でしたが、どうやら腸内細菌が大きく関与しているようです。
私たちの腸内には1000種類の腸内細菌が100兆個も生息しています。総重量はなんと1.5kgです。
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分けられます。3つの割合が、2:1:7が理想とされています。
善玉菌 ビフィズス菌、乳酸菌 免疫力を高める、腸の運動を促進、消化・吸収の促進
悪玉菌 病原性大腸菌、ウェルシュ菌 下痢、腸炎、老化させる毒素、発がん物質
日和見菌 バクテロイデス、連鎖球菌 悪玉にも善玉にもなりえる
腸内細菌はどの細菌が優位かによって3つの腸内細菌型(エンテロタイプ)に分けられます。
バクテロイデス型 高脂肪、高タンパク食 アメリカ、中国、デンマーク
プレボテラ型 高炭水化物、高食物繊維 中南米、アフリカ
ルミノコッカス型 中間的食事(魚食多い) 日本、スウェーデン
このなかでNASH症例は日和見菌のバクテロイデスとルミノコッカス(連鎖球菌の一種)が増加しています。高脂肪、高タンパク、低食物繊維の食事パターンにより腸内のバクテロイデスとルミノコッカスを増加させ、日和見菌が悪玉菌として作用しています。腸内細菌が内因性エタノールを産生します。つまり、酒を飲まなくても腸内でお酒が作られてしまいます。NASHは“非アルコール性”ですが、結局、肝臓はアルコールに弱い臓器ということです。
腸内細菌を変化させる原因
砂糖など糖質の過剰摂取で余った糖質が悪玉菌のエサ
高脂肪食で腸管バリアの脆弱化
腸内細菌のエサである食物繊維不足
では善玉菌を増やして悪玉菌や日和見菌を減らす、“腸活”はどのようにすれば良いのでしょうか。
善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌、納豆菌、酪酸菌、ガゼリ菌、アシドフィルス菌、フェカリス菌)が多く含まれる発酵性食品(プロバイオティクス)と、善玉菌のエサになる水溶性食物繊維やオリゴ糖が豊富な食材(プレバイオティクス)を積極的にとるとよいでしょう。
プロバイオティクス(補う):
ビフィズス菌ヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、味噌
プレバイオティクス(育てる):
わかめ、ひじき、イモ、ゴボウ、オートミール、バナナ、リンゴ、はちみつ、きのこ
プロバイオティクスとプレバイオティクスの2つを組み合わせたものを、“シンバイオティクス(相乗効果)”とよびます。生きた善玉菌と善玉菌の栄養源を同時に摂取すると、腸内環境がより効果的に整い、健康増進に役立つと考えられています。
シンバイオティクスの飲料やサプリが市販されていますが、普段の食生活で手軽に取り入れることができます:
シンバイオティクスの例:
プロバイオティクス+プレバイオティクス
ヨーグルト + バナナ
ヨーグルト + はちみつ
味噌汁 + なめこ
非アルコール性脂肪肝の検査
NAFLDには自覚症状がほとんどありませんが、肝細胞の障害によって血中のAST、ALT、γ-GTPなどが異常値を示すようになります。そのため血液検査でこれらの数値を確認することが大切です。特にNASHの場合は肝細胞が炎症によって障害され繊維化していくことで血小板数が低下や、肝細胞の繊維化マーカーであるヒアルロン酸やⅣ型コラーゲン7S、Mac-2 結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)の血中濃度上昇もみられるようになります。
そのため、これらの数値を組み合わせて肝細胞の繊維化状態を算出するFIB4-indexやNAFLD fibrosis scoreといったスコアリングシステムをつかって肝硬変の発症リスクを予測していきます。FIB-4インデックスは、日本肝臓学会のウェブページ等で計算することができます。FIB-4インデックスは1.3未満であれば肝臓の線維化が重度である可能性は極めて低く、逆に1.3以上であれば追加して検査を受ける必要があります。
これらの検査によってNASHの疑いが強い場合には、さらに超音波やMRIをつかって肝臓の物理的な硬さをみるエラストグラフィ検査を行います。また肝臓の硬さを測定する「肝硬度計(エラストグラフィ)」の進歩は目覚ましく、肝生検に匹敵する診断能を発揮します。

自分のおへそあたりの腹囲(ウエスト周囲長)を測ってみましょう。男性ではウエストが85センチ以上、女性は95センチ以上の場合、脂肪肝を持っている人が半数以上となります。また20歳の時の体重から10kg以上増えているという方も要注意です。必ず腹部エコー検査を受けるようにしましょう。


NAFLD/NASH診療ガイドライン2020 改訂第2版 日本消化器病学会・日本肝臓学会
非アルコール性脂肪肝の治療
NAFLDと診断された場合、まずは食事や運動など生活習慣の改善が大切になります。その上で必要な場合は薬物療法を行います。
生活習慣の改善
NAFLDと診断された場合、まずは体重を減らすことが大切です。それによって有意に肝組織の改善が認められます。NAFLDの背景には多くの場合生活習慣病がともなっていますが、食事においては栄養バランスを保ちながらのカロリー制限が大切です。また適切な有酸素運動の習慣化、睡眠の質の向上などを行うことで、体重減少とともに生活習慣病の改善も期待することができます。
薬物療法
NAFLDやNASHそのものへの治療薬は、肝臓の炎症や線維化を抑える薬、体重減少を促す薬、脂肪肝が進行しやすい体質を改善する薬など、我が国をはじめ世界中で現在開発が進められていますが、現時点では保険適用として承認されたお薬はありません。現在、日常の医療で使用されている糖尿病や脂質異常症、高血圧症に対する治療薬の中には、副次的な効果として、NASHの肝臓の脂肪化や炎症を軽くする、肝臓を硬くしている線維化の進行を抑えるといった効果が期待されているものがあります。また体重減少効果がある薬もあります。糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬はこれに該当し、現在NASHを対象とした治験が全世界で進行中です。また米国の2型糖尿病治療ガイドラインでは、肝臓の線維化があるNASHに対してのGLP-1受容体作動薬の使用が推奨されています。また糖尿病治療薬であるピオグリタゾンや、SGLT2阻害薬にもNASHに対しての効果が確認されております。糖尿病や脂質異常症、高血圧症等の併存疾患をお持ちの方は、これらの併存疾患の治療の副次効果としてのNASHへの効果が期待され、使用されることがあります。しかしそれらはNASH治療としての保険適用はありません。また、NAFLDやNASHを含めたすべての生活習慣病は、生活習慣の改善や肥満の是正が最も重要です。

MASLD
代謝異常に関連する脂肪性肝疾患(Metabolic dysfunction associated steatotic liver disease:MASLD)とは
脂肪肝は、飲酒によるアルコール性のものと、肥満など生活習慣による非アルコール性のものに分類されてきました。しかし、肝硬変、肝がんへの移行リスクとともに、脂肪肝自体が脳梗塞や心筋梗塞などの循環器疾患の原因として注目されていることなどから、代謝異常に関連する脂肪肝を、アルコール性、非アルコール性にかかわりなく、またウイルス性肝炎などの病歴に関係なく代謝異常関連脂肪肝と定義することが世界的な肝臓に関する学会で2020年に提唱されました。代謝異常に関連する脂肪性肝疾患は英語のMetabolic dysfunction Associated Steatotic liver DiseaseからMASLD(マッスルディーまたはマッスルド)とも略称されています。
脂肪肝の原因として代謝異常が強くかかわっていることの条件としては、おおまかには脂肪肝に肥満または2型糖尿病が合併しているか高血圧、内臓脂肪型肥満など2種類以上の代謝異常が合併している場合、MASLDと診断されます。
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の診断
脂肪肝が発症していて、それに肥満か2型糖尿病または肥満のない人でも2種類以上の代謝異常が合併している状態がMASLDと定義されており、それに従って診断します。
脂肪肝の診断のためには、血液検査と腹部エコー検査などの画像検査で行います。また確定診断のために肝生検を行うこともありますが、診断のための必須条件ではありません。
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の診断規準
まず脂肪肝であることが前提で、さらに次の条件①~③のどれかが合併している場合にMASLDと診断されます。
① 肥満状態 アジア人の場合BMIが23.0以上
② 2型糖尿病 糖尿病の診断基準に従う
③ 2種類以上の代謝異常
腹囲がアジア人男性では90cm以上、女性で80cm以上
血圧が130/85mmHg以上か高血圧の薬物治療中
脂質異常症または脂質異常症の薬物治療中
耐糖能異常(高血糖または高HbA1c)またはインスリン抵抗性高値など糖尿病予備軍
中高年では、かなりの方がこの条件にあてはまる可能性があります。
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の違い
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)は新しい脂肪肝の分類方法です。今までは、アルコール性であるか非アルコール性であるかで、ALD(アルコール性脂肪性肝疾患)やNAFLD(NAFL/NASH)のどちらに属するかという分類でした。
MASLDにおいても、脂肪肝の原因となりうる、大量飲酒によるアルコール性肝障害などの他の原因となる肝疾患の除外診断は必要ですが、脂肪肝に代謝異常が合併していることが診断の条件です。海外・日本の研究では、NAFLDと診断された方の96~98%はMASLDと診断が一致すると報告されています。脂肪肝の原因が代謝異常関連以外の原因と合併することもあります。
代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の検査
MASLDが疑われる場合、以下のような検査を行います。
血液検査
肝臓の異常を示すAST、ALP、γ-GTPなどの肝酵素、アルブミンなどのほか、肝臓の線維化の状態を示す血小板数、肝臓の線維化マーカーなどをチェックします。また、代謝機能に関する血糖値、HbA1c、中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールなどの数値も確認します。これらの数値を組み合わせてFIB4-indexやNAFLD fibrosis scoreといったスコアリングシステムを使って肝組織の線維化の進行度、リスクなどを算出していきます。
腹部超音波検査(エコー)
肝臓の超音波検査では、脂肪肝の状態や繊維化の進行度合い、肝がんの有無などが確認できます。
エラストグラフィ検査
フィブロスキャンは剪断波(せんだんは)とよばれる特殊な超音波による振動を肝臓にあてて、肝臓の硬さや肝脂肪の量を測定する検査です。肝細胞が繊維化していると、物理的に肝臓は硬くなるため、肝硬変のリスクを測定するための肝生検に変わる無侵襲の検査として注目を集めています。フィブロスキャンはトランジェントエラストグラフィとも呼ばれNAFLDの検査の項目でも説明した超音波エラストグラフィと同じ検査です。肝生検はエコーで見ながら直接肝臓に針を刺す痛みを伴う検査ですが、フィブロスキャンは痛みはゼロです。当院の最新の超音波検査では、肝臓の硬さと肝線維化の評価(硬さをみるエラストグラフィ検査(SWE: Shear wave Elastography)や超音波減衰法による肝脂肪定量(ATI)が可能で、フィブロスキャンで得られる情報以上に、肝臓の脂肪化や線維化を「見える化」することが可能です。
肝線維化(SWE: Shear wave Elastography)

肝脂肪定量(ATI)
肝線維化バイオマーカー
肝線維化ステージ診断は血液検査でも簡便に可能です。

代謝異常関連脂肪肝(MASLD)の治療
生活習慣の改善
MASLDの治療においても生活習慣の改善が基本です。
- 食事療法
- 食物繊維の豊富な食品、野菜や果物、全粒穀物を中心とした食事が推奨されます。飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、添加糖の摂取は控えめにします。カロリーは1日1200-1500 kcalに抑えましょう。低炭水化物にくわえ不飽和脂肪酸をたくさんとる地中海食がおすすめです。
- 運動療法
定期的な運動は、体重管理とインスリン感受性の改善に寄与します。週150分以上の中等度〜高強度の運動を目標とします。有酸素運動とレジスタンス運動が効果的です。 - 減量
適正体重の維持または達成は、肝臓の負担を和らげ、MASLDの病状改善につながります。現実的な減量目標を設定しましょう。 - 禁酒
アルコールは肝臓に過剰な負荷をかけるため、MASLDの患者には禁酒が強く勧められます。
薬物療法
特定の合併症のある方、または生活習慣の改善のみでは十分な効果が得られない場合には、薬物療法が検討されます。インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン誘導体など)や肝臓の線維化を標的とした薬剤(ビタミンEなど)が使用されることがありますが、これらは専門医の厳密な管理下で投与されます。