• 2025年7月13日
  • 2025年7月22日

脂質異常症(高脂血症)

コレステロールや中性脂肪が過剰になると動脈硬化や血管の狭窄・閉塞を起こしやすくなります。悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪のトリグリセライドが過剰な高脂血症だけでなく、善玉のHDLコレステロールが少ない状態も加えて脂質異常症と呼ばれています。

脂質異常症は自覚症状なく進行するため、健康診断などで指摘されたら早めに受診して適切な治療を開始する必要があります。また、改善しても実感しにくいため、定期的に検査を受けて状態を維持しましょう。

コレステロールの多い食品

卵類(鶏卵や魚卵など)

内臓類(レバーやモツなど)

脂身の多い肉や加工肉(バラ肉、牛脂、ラード、ハム、ソーセージ、ベーコンなど)

乳脂肪の多い食べ物(バター、チーズ、アイスクリームなど)

インスタント食品(カップ麺、レトルト食品など)

マーガリン、ショートニング、業務用油などのトランス脂肪酸

菓子類(スナック菓子やケーキなど)

中性脂肪の多い食品

ケーキ、アイスクリーム、甘味ジュース、お菓子(クッキー、チョコ)などの砂糖・果糖の多い食品

パン(特に菓子パン)、麺(特にインスタントラーメン)、米などの炭水化物の摂りすぎ

ビール、日本酒、甘口ワインなどのアルコール飲料

バター、生クリーム、チーズなどの乳脂肪分の多い食品

牛肉(牛バラ肉、牛脂)や豚肉(豚バラ肉、ラード)などの脂質の多い肉類

揚げ物(特に業務用揚げ油)、マーガリン、ショートニングに含まれるトランス脂肪酸

積極的に摂取したい食品 

食物繊維
脂肪分の吸収を妨げ、コレステロールの排泄を促す働きがあります。
全粒の穀物(玄米・胚芽米・全粒粉パン)、野菜、きのこ、海藻に多く含まれています。

特に水溶性繊維は脂肪の吸収を抑えます。ぬるぬるネバネバ系の食品に多いです。

水溶性繊維:

めかぶ、もずく、ワカメ、オクラ、モロヘイヤ、納豆

DHA /EPA
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった、“ω(オメガ)3”がLDLコレステロールや中性脂肪を下げて、HDLコレステロールを増やします。動脈硬化を予防します。 青魚(サバ、イワシ、アジ)、脂がのった魚(マグロ、サンマ、ブリ)や甲殻類(カニ、ムール貝、カキ)に多く含まれています。サバ缶やツナ缶でも手軽に摂取できます。加熱調理で減少するので、生食の方が効率が良いです。EPAは酸化され生活習慣病を引き起こすリスクのある過酸化脂質へ変化するので要注意です。ブロッコリー(ビタミンC)、ごま(ビタミンE)、納豆・ワイン(ポリフェノール)などの抗酸化作用のある食べ物と一緒に食べることをおすすめします。

オレイン酸

一価不飽和脂肪酸で、多価不飽和脂肪酸に比べて熱に強く酸化されやすい長所があります。加熱調理や保存食でも変化しないので、コレステロール低下作用を期待できます。ただし、α-リノレン酸、DHA/EPAに比べると、コレステロール低下作用はやや弱いとされています。

家庭でよく使われる“サラダ油”は、精製油を作る工程に、“脱ろう”という冷えると固まるワックスやパラフィンを取り除く作業を加えた油です。低温にしても固まらないのでサラダドレッシングに使えることからサラダ油と呼ばれています。サラダ油の主成分は、アブラ菜(なたね)、綿実、大豆、ごま、紅花、ひまわり、とうもろこし、米(米糠)、落花生です。最も多く市販されているサラダ油はオレイン酸であるャノーラ油(菜種油)を原材料としています。

α-リノレン酸

強いLDL低下作用があり、心筋梗塞や脳卒中を減少させます。n-9系やn-6系は日本人は十分に摂れているか過剰であることが多いです。n-3系は日本人に特に足りていないと言われています。意識して多く摂ることが必要です。α-リノレン酸は効果的な健康食品ですが、欠点が熱と酸化に弱いことです。加熱調理はおすすめしません。サラダ、カルパッチョ、ヨーグルトなどにかけて摂りましょう。冷蔵庫内で保存して、空気や光にあたらないようにしましょう。最近は亜麻仁油(アマニ油)、荏胡麻(エゴマ油)でつくったドレッシングやマヨネーズも製品化されています。

分類脂肪酸食品長所短所
飽和脂肪酸パルミチン酸パーム油、ヤシ油、牛脂、ラード、バター LDLが上昇して心筋梗塞や脳卒中が増加
ステアリン酸
ミリスチン酸
ラウリン酸
不飽和脂肪酸一価n-9系オレイン酸オリーブ油、キャノーラ油(菜種油)、べに花油、米油、アーモンド熱に強く酸化されにくいLDL降下は多価不飽和脂肪酸より弱い 過剰摂取すると冠動脈疾患リスク
多価n-6系リノール酸サフラワー油、大豆油、ごま油、コーン油、ひまわり油 加工食品に多く含まれ過剰になりやすい
γ-リノレン酸月見草油、母乳  
アラキドン酸レバー、卵、アワビ 過剰摂取で炎症
n-3系α-リノレン酸しそ油、えごま油、アマニ油、くるみ強力にLDL低下させる熱に弱く酸化されやすい。加熱調理に向かないことや長期保存に耐えない
DHAマグロ、ブリ、サバ、ウナギ、カツオ、タイ、カニ、ムール貝、カキLDL、中性脂肪を低下加熱で減少 酸化され生活習慣病を引き起こすリスクのある過酸化脂質へ変化
EPAサンマ、イワシ、ニシン

レシチン/サポニン
HDLコレステロールを増やしたり、LDLコレステロールを下げる効果があります。
大豆の成分です。

大豆製品:

豆腐、豆乳、納豆、枝豆

抗酸化作用

抗酸化作用とは、活性酸素による体へのダメージを低減する働きで、動脈硬化や老化の進行を防ぐ効果が期待できます。

活性酸素は、体内で酸素が食べ物をエネルギーに変換する際に発生し、細胞を傷つけることで老化や生活習慣病の原因となります。動脈硬化の発症や進行には活性酸素の関わりが大きく、血管内で悪玉コレステロール(LDL)を酸化させたり、血管の内側に溜まったりすることで動脈硬化を引き起こします。

抗酸化作用のある物質や食品を摂取することで、活性酸素による酸化ストレスを軽減し、動脈硬化の進行を防ぐことができます。

抗酸化作用のある物質や食品には、次のようなものがあります。


ビタミンA:緑黄色野菜に多く含まれます。ブロッコリー、ほうれん草、ニンジン、かぼちゃ

ビタミンC:果物に多く含まれ、活性酸素から細胞を守ります。アセロラ、パプリカ、芽キャベツ、ブロッコリー、キウイ、レモン、オレンジ

ビタミンE:植物油や種実類に多く含まれ、体内の脂質の酸化を防ぎます。煎茶・番茶・ほうじ茶・抹茶、ひまわり油、オリーブオイル、ごま、アーモンド、ヘーゼルナッツ、うなぎ、大豆、アボカド、卵、唐辛子

カロテノイド:魚介類やフルーツなどに含まれ、強い抗酸化力を持っています。エビ、カニ、サケ、スイカ、甘のり、ニンジン、みかん、カキ、とうもろこし

ポリフェノール:渋みや苦みを持つ色素の濃い植物に含まれ、活性酸素を吸収して取り除いたり、活性酸素によって傷つけられた組織を修復したりします。アントシアニン(ブルーベリーなど)、大豆サポニン(納豆・豆乳などの大豆製品など)などが含まれます。ワイン、ブルーベリー、ナス、緑茶、紅茶、コーヒー、大豆製品

ケルセチン:玉ねぎやアスパラガス、レタス、りんごなどに含まれ、血液をサラサラにする効果があります。

抗酸化作用は年齢とともに減少するため、老化の原因の一つといわれています。体内の抗酸化防御機能は20代をピークに徐々に衰え、40代をすぎると急激に低下します。運動や抗酸化物質の摂取などによって、抗酸化防御機能を維持し、老化や病気を予防しましょう。

脂質異常症の治療

食事療法や運動療法といった生活習慣の改善を行いますが、高LDLコレステロール血症・高トリグリセライド血症・低HDLコレステロール血症というタイプごとにポイントになる生活習慣改善の内容が変わってきます。定期的に診察を受けてしっかり治療を続けましょう。

高LDLコレステロール血症では、動物性脂肪を控える食生活が重要になります。高トリグリセライド血症の場合は、摂取カロリーをしっかり守る必要があり、飲酒はできるだけ控えてください。低HDLコレステロール血症では、適正体重をキープすることを心がけます。生活習慣の改善では十分な効果を得られない場合には薬物療法も必要になります。

リスク評価

個々の患者の背景(冠動脈疾患の既往、高リスク病態、性別、年齢、危険因子の数と程度)によりリスクは大きく異なるので、下記のStep1からStep3の順に従って管理区分(カテゴリー分類)を求めます。

Step1 冠動脈疾患、脳梗塞の既往の有無

     有→二次予防 無→Step2

Step2 一次予防の高リスク

   1)糖尿病

   2)慢性腎臓病(CKD)

   3)末梢動脈疾患(PAD)

  有→高リスク

Step3 性別、年齢、収縮期血圧、糖代謝異常、血清LDL、血清HDL、喫煙から絶対リスク(10年間の動脈硬化疾患の発症リスク:久山町研究スコア)を評価し、カテゴリーを求める

  絶対リスク 2%未満→低リスク

  絶対リスク 2%-10%→中リスク

  絶対リスク 10%以上→高リスク

一般社団法人 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患発症予測ツール

日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版 第3章 動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理

高LDLコレステロール血症の食事

1.飽和脂肪酸(肉の脂身が多い部位)、コレステロール(卵やレバーなどの内臓)を多く含む食品を控えましょう

2.豆腐、納豆などの大豆製品を摂りましょう

大豆タンパク質は、コレステロールの吸収を抑制してくれます。

3.野菜、海藻類、きのこなどの食物繊維をしっかり摂りましょう

コレステロールの体内への吸収を抑えてくれます。

1日あたりの目安は食物繊維20~25g、野菜として1日350g程度となります。

4.油の種類を選びましょう

動物性より、オリーブオイル、ひまわり油などの植物性がお勧めです。

ただし、摂りすぎはエネルギー過剰になるので注意です。

高トリグリセライド血症の食事

1.魚の摂取頻度(特にマグロやサバなどの青魚)をあげましょう
魚に多く含まれるDHAやEPAなどの油は、血液の流れを良くするはたらきがあります。
1日1回は魚の献立にし、週に3回程度は青魚を選びましょう。

2.菓子類、ジュースはやめましょう

3.炭水化物(米、パン、麺)、果物の摂取を適量にしましょう
炭水化物、果物にふくまれる糖分が中性脂肪をあげる原因にもなります。

4.アルコールは適量に抑えましょう
1日あたりの目安量はアルコール量として20~25gで、ビール500ml、日本酒1合、焼酎(35度)約70mlとなります。
週に2日の休肝日を作ってあげましょう。

低HDLコレステロール血症の食事

1.トランス脂肪酸(マーガリン、ショートニングなど)の摂りすぎに注意しましょう

2.栄養素のバランスが整った食事にしましょう
極端な糖質制限にならないように、たくさんの栄養素を摂るようにしましょう。

生活習慣の改善

● 禁煙し、受動喫煙を回避する
● 過食を抑え、標準体重を維持する

● 肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす

● 野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす

● 食塩を多く含む食品の摂取を控える(6g/日未満)

● アルコールの過剰摂取を控える(25g/日以下)

● 有酸素運動を毎日30分以上行う(速歩、スロージョギング、社交ダンス、水泳、サイクリング、ベンチステップ運動)

薬物療法

● 生活習慣の改善で脂質管理が不十分な場合には、薬物療法を考慮する。

● 糖尿病、慢性腎臓病、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患では早期の薬物療法を考慮する。

● カテゴリー IであってもLDL-Cが180mg/dL以上を持続する場合には薬物療法を考慮する。

● 若年者や女性で絶対リスクが低い場合には、薬物療法は控える。

● 脂質管理目標値は、あくまで目標値であり、薬物療法開始基準値ではない。

治療薬の選択

● 薬物療法は個々の患者の病態に応じ、各薬剤の作用点と効果を考慮して選択する。

● 高LDL-C血症に対する治療薬としてスタチンが推奨される。

● TGが500mg/dL以上の場合には、急性膵炎の発症リスクが高いため、食事指導とともに薬物治療を開始する。

● 単剤でLDL-Cの十分な管理ができない場合には、併用療法を考慮する。

高脂血症の治療薬

1. コレステロール値を下げる薬剤

◆スタチン系製剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)
肝臓でコレステロールが合成されることを抑制する薬です。その作用によって肝臓にあるコレステロールが不足し、不足分を補おうとする働きにより血液中のコレステロールが肝臓に取り込まれ、血液中のコレステロールが減少します。動脈硬化を予防する効果が認められており、脂質異常症(高脂血症)の薬物療法として最初に処方されることも多いです。

副作用:
筋肉が破壊される「横紋筋融解症」を発症する可能性がある。まれな副作用として、腎臓疾患患者や高齢者に、ふくらはぎに筋肉痛があらわれることもある。腹痛や吐き気などの胃腸症状と肝障害が起こることもある。

メバロチン 10mg/日1~2回
リポバス  5mg×1回/日
リバロ  1~2mg×1回/日
リピトール  10mg×1回/日

クレストール 2.5mg×1回/日

ローコール 20mg~30mg×1回/日

◆陰イオン交換樹脂(レジン)製剤
コレステロールを体外へ排泄する働きを促進する薬です。
肝臓で生成されたコレステロールの一部は、消化液のひとつである胆汁酸に変わり、消化・吸収を助ける役割を終えたあと、小腸で吸収され再び肝臓に運ばれ再利用され、最終的に排泄されます。
陰イオン交換樹脂製剤を服用すると、胆汁酸と結合して胆汁酸の排出を促します。それにより肝臓のコレステロールが減り、減った分を補填するために血液中のコレステロールが肝臓に取り込まれ、血液中のコレステロールが減少します。

副作用:便秘、硬便、軟便、腸閉塞など

クエストラン 水に4g(水100mLに懸濁)×2~3回/日

コレバイン 1.5g×2回/日(一日最大4gまで)朝夕食前に200MLの水とともに

◆小腸コレステロールトランスポーター阻害剤
小腸でコレステロール吸収を阻害し、血中コレステロールを低下させる薬です。 先スタチン系製剤(HMG-CoA還元酵素阻害剤)と併用することで、高い効果を期待できます。

副作用:便秘、筋肉が障害を受ける「横紋筋融解症」を発症する可能性

ゼチーア 10mg×1回/日

2. コレステロール値と中性脂肪値を下げる薬剤

◆ニコチン酸誘導体製剤
肝臓での中性脂肪・リポタンパク質の合成を抑制し、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値を低下させる作用とともに、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす作用があります。

副作用:便秘、下痢、胃部不快感、発疹、顔の赤らみ、ほてり

ユベラN 100~200mg/3回/日
コレキサミン 200~400mg×3/日
ペリシット 250mg×3/日

3. 中性脂肪値を下げる薬剤

◆フィブラート系製剤
中性脂肪の合成を阻害する薬剤です。 中性脂肪やLDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを増加させる作用があります。ただし、それほど高い効果は期待できないことがあります。
スタチン系製剤や抗血栓薬(ワーファリン)、糖尿病薬と併用すると悪影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。

副作用:
筋肉が障害を受ける「横紋筋融解症」を発症する可能性がある。まれな副作用として、腎臓疾患患者や高齢者に、ふくらはぎに筋肉痛があらわれることもある。腹痛や吐き気など胃腸症状や胆石や肝障害を発症することもある。

ビノグラック  750~1500mg/日を2~3回
ベザトールSR  400mg/日を2回に分けて
リポクリン  200mg×3回/日
トライコア  106.6mg~160mg×1回/日

◆EPA製剤
EPA(エイコサペンタエン酸)という魚の油などに含まれる成分から作られています。脂質の合成を抑制したり、血液を固まりにくくしたりする作用があります。
しかし、血液を固まりにくくする抗血栓薬(ワーファリン)などの薬剤を服用中の人が併用する場合、出血しやすくなるので注意しましょう。

副作用:
胃の不快感や吐き気、発熱、皮膚や白目が黄色くなるといった肝臓の副作用が疑われる症状、鼻血などの出血

エパデール  900mg×2回/日、または600mg×3回/日
ロトリガ  2g×1回/日

出典:メディカルレビュー社「治療薬UP-TO-DATE 2019」1. コレステロール値を下げる薬剤

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